ピルと聞くと、避妊方法で活用している印象があります。避妊薬としての精度は高く、飲み忘れさえなければ100%に限りなく近い避妊率です。
そんなピルですが、服用することで避妊とは反対に、妊娠する確率を上げる可能性があるといわれています。
ピルを止めることで妊娠する確率が上がるのは分かりますが、これを服用することで妊娠確率が上がるはどういうことなのでしょうか?
そこで今回は、
・ピルで妊娠確率があがるって本当?
・ピルの避妊以外の作用を知りたい
・ピルはなぜ避妊できるの
・ピルの副作用ってどんなもの
といった方に、ピルについて詳しくご紹介していきます。
ピルの基礎知識
ピルと聞くと、イメージとして浮かぶのは前にも触れた通り避妊薬です。
しかし、ピルの効果はそれだけではないことをご存じでしょうか?聞いたことはあるけど、詳しくは説明できない人が大半だと思います。
じつは、ピルの働きとは避妊だけではないのです。
ピルの主成分
ピルの主成分は「エストロゲン」、そして、プロゲステロンの作用をする「プロゲステノーゲン」というホルモンになります。
実はこの2つのホルモンは、女性ホルモンを構成する卵胞ホルモン(プロゲステロン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)のことで、つまり女性ホルモンが含まれた錠剤なのです。
エストロゲンは主に、皮下脂肪を増やし妊娠に備えるため子宮内膜を厚くするなど、女性らしい体になるように働きかけ、プロゲステロンは妊娠や出産に欠かせないホルモンで、受精卵が子宮内膜に着床しやすいよう状態を整えるなどの働きがあります。
ピルが避妊薬として効果を発揮するのは、これらのホルモンをピルで取り入れると脳が妊娠に必要なホルモンを分泌したと勘違いして、女性ホルモンの分泌を抑えて排卵も起こらなくなるからなのです。
簡単にいえば、脳を勘違いさせることなのですが、ピルを正しく使用できれば99.9%の確率で避妊効果が期待できます。
ピルの種類と錠剤のタイプ
ピルには、いくつかの種類とタイプがあります。
避妊目的で使用されているピルは、正しくは「低用量ピル(経口避妊薬)」と呼ばれるもので、卵胞ホルモンの用量を50グラム未満にしたものです。
避妊薬として、ほとんどの国で許可されているものは、卵胞ホルモンの用量が30〜40グラムのものとなります。
また日本ではまだ未認可であるものの、これ以上に用量を減らしたものは「超低用量ピル」といわれています。
低用量ピルより用量が多いものもありますが、それは避妊を目的としたものではなく、病気の治療薬として使用されることが多く、50グラムの中用量ピル、それ以上の高用量ピルに分けることができます。
低用量ピルが認可される1999年以前は、中用量ピルが避妊薬として普及していた時期もありました。
ピルのホルモン配合
ピルの中でも、低用量ピルはここから更に3つの種類に分けることができます。
ピルに含まれるホルモンの配合率によって変わるのですが、それぞれ一相性、二相性、三相性となります。
ピルは基本21錠で1セットなのですが、この錠剤が全て同じ成分配合であれば1相性ピル、後半になるにつれて黄体ホルモン量が2倍になっているなど配合が2段階に分かれている場合は2相性ピルになります。
個人の1周期中の女性ホルモン量の変化によって使うピルの相性はわかれます。また、3相性のように段階が3つにわかれてくると、配合変化が製品によって異なってきます。
2相性ピルの方が自然なホルモン変化に近いといわれていますが、生理日の調整に便利なことから、ベテランユーザーを含め人気があるのは1相性のピルです。
アメリカなどの諸外国では、およそ60%がこの1相性のピルを使用しています。
日本では、1相性しかありません。
錠剤のタイプ
ピルのホルモン配合で挙げたようにピルは基本21錠で1セットですが、もう1つ28錠タイプもあります。
21錠タイプは毎日決まった時間に1錠ずつ、21日間欠かさず服用するタイプで、21錠分飲み終わった後は7日間の休憩を挟んでから、また服用と、繰り返すタイプです。
これに対し28錠タイプというのは飲み忘れを防ぐため、最後の7錠はホルモンの入っていないプラセボ錠と呼ばれる有効成分が入っていない偽薬がプラスされたタイプになります。
偽薬の7錠を飲んでいるときはいわば21錠タイプの休憩期間になるのです。
そして、28錠飲み切った次の日には、新しい28錠タイプを服用することになるので、ずっと飲み続けることになりますが、飲み忘れも防げて服用する習慣を作れるのです。
21錠タイプも28錠タイプも21錠分飲み終わった7日間の休薬中(28錠タイプは7錠の偽薬を服用中)に月経のような出血がありますが、後々少なくなってきます。
服用されている方で、出血が気になる場合には医師に相談しましょう。
避妊以外のピルの効果
女性ホルモンが配合されているピルには、避妊以外でも期待できる効果がたくさんあります。例えばホルモンを21日間、欠かすことなく服用することから排卵後に起こるホルモンの変動がなくなります。
ホルモンの変動が原因とされる、月経前症候群(PMS)や肌トラブルの1つであるニキビの改善・軽減に繋がります。
また、配合されている黄体ホルモンによって子宮内膜に厚みが出てきますから、出血の量を減らして生理痛を軽くすることもできます。
黄体ホルモンは子宮内膜の保護もしてくれますから長期服用すれば子宮体がんの予防にもなるといわれています。リスク回避で言えば、ピルは排卵を抑えてくれる働きがあります。
結果的に排卵による卵巣の損傷も少なくなり、卵巣がんなどの病気にかかる確率も低くなってきます。
これ以外にも効果はありますが、ピルを服用するだけでこれだけの効果が得られるのですから、外国で愛用者が多いのも頷けます。
ピルで妊娠率が上がる理由
女性ホルモンが関係していることから、確かに妊娠の確率に繋がりがないとはいえませんが、効果と利用方法から見ても妊娠力の向上は何だか矛盾していると思われるかもしれません。
ピルにより妊娠の確率が上がるとはどういうことなのでしょうか?
疾患の予防になる
子宮体がん、卵巣がんのリスクを下げるのは、先ほどご紹介しましたが、ピルの服用は、飲んでない人に比べてその他の婦人科系疾患も予防することができます。
この疾患は体に良くないのはもちろんのこと、妊娠するのを妨げてしまう病気でもあり、不妊に繋がる恐れのある病気としては、
・子宮筋腫
・子宮内膜症
・子宮頸がん
などといった子宮の病気が挙げられます。子宮頸がんは、子宮がん検査もあるのでご存知の方も多いでしょう。
不妊の原因は特定が難しいので、これらの病気だけが原因ではありませんが、予防もしくは早期発見に越したことはありません。
ピルを5年間服用した場合、服用しなかった人より疾患の1つである卵巣がんの発症が3割抑制できたことも証明されています。
妊娠には、妊娠しやすい体に整えておくことも重要です。
いざ、妊娠を考えるその時までの間、ピルを服用することで、これらの病気や疾患を予防できるのであれば、結果、妊娠しやすい体を手に入れることになります。
卵巣を休ませる
ピルは排卵を抑えることができますが、それは卵巣を休ませることにも繋がっていきます。
服用していると、休薬中の間などに月経のような出血がありますがこれは、ピルを飲むことを1週間きっちり休むことで黄体ホルモンであるプロゲステロンの濃度が徐々に下がっていき、子宮内膜などたまったものが、はがれ落ちるためです。
ピルの作用によって子宮内膜ができるとはいえ増殖することは抑えてくれているので、自然に起こる月経よりも痛みが少なく穏やかな感じになります。人によっては、出血がなくなることもあります。
もともと、卵子の数は決まっていますし、年齢が上がるとともに老化は避けられないのが普通ですが、ピルの服用で卵巣を休めることで卵巣が元気な状態でいられます。
卵巣のう腫、卵巣出血といった排卵などによって卵巣が傷付くことで起こる病気を予防することもできます。
また、卵巣がよく休んだ後に排卵される卵子はとても状態が良いといわれているので、ピルは、いざ子供が欲しいと思ったときにスムーズに妊娠へ運んでくれることが期待できます。
高齢妊娠も期待できる
妊娠ができる確率は、想像しているよりとても低いものです。
男女そろって若い年齢で健康、それに加えて排卵日に合わせて性交渉を行う好条件でも妊娠の可能性は20~25%といわれていますから、簡単でないことはよくわかります。
これで年齢が上がっていくと更に確率は低くなり、同じ条件で35歳の女性であれば確率は10~15%になってしまいます。40歳後半ともなってしまえば自然妊娠ができる可能性はわずか1~5%になります。
「いつかできるだろう」というのは、甘い考えなのです。
しかし、ピルを服用することで年齢による原因の緩和が期待されています。
20代からピルの服用を続ける必要がありますが、卵巣を休ませるなどピルの働きによって、2006年に実施された受精卵移植では、35~37歳で37.3%、38~40歳で26.6%、42歳で15.2%、43、44歳でも6.7%と確率が上がったのです。
この結果を踏まえ、20代と早い年齢から服用していたことで、ホルモンバランスも整っているなど体が妊娠しやすい状態になっていたことが30代後半からでも比較的スムーズに妊娠できたことに繋がったのではないかといわれています。
上手くピルと付き合っていければ、高齢(35歳以上)でも自然妊娠の確率が上がる可能性があります。
副作用に注意
ホルモンの用量を低くした低用量ピルの認可によって少なくなってきているものの、やはり服用することによる副作用はあります。考えられる副作用としては、大きく次の2つに分けることができるようです。
・体の不適応
・疾病のリスク
それぞれみていきましょう。
体の不適応による症状
ピルを初めて服用する人にも多い症状なのですが、体が慣れるまではめまいや吐き気などの症状が見られます。軽い月経といった不正出血もその1つです。
ピルの服用によって、バランスよく配合されたホルモンが定期的に体に供給されることになるので、体内のホルモン環境が通常時と変わってしまいます。
体にしてみれば急にできた新しい環境にすぐには慣れませんから、先に挙げたような不快感を伴う症状が現れるのです。こういった症状は体の慣れの問題なので、体が環境に馴染んでいくうちに徐々に収まっていきます。
一時、ピルを飲むと太るなんて話もありましたが、これはピルが原因と言うよりはピルを服用することで起こる、食欲増進やむくみによるものなので、きちんと自己管理ができればコントロールすることが可能です。
一時的とはいわれていますが、こうした症状でも個人差はあるので、あまりにも酷い場合には使用を中止し、病院へ行きましょう。
疾病のリスク
ピルがもたらす副作用の中には、疾病に近いリスクもあります。
ピルの中に含まれる女性ホルモンによって、血液を固める成分の合成をしてしまうために、血栓ができるリスクが3~5倍に上がるといわれています。
実際にこの血液の固まりを作ってしまう副作用で、過去5年の間に11人の死亡例が確認されていますし、重症例も361件と多いのです。また、治療中の疾患を悪化させる可能性もあるので、注意が必要になります。
こうした理由から、ピルは服用する前に医師に相談するか自分でチェックすることが必要です。
チェック項目としては乳がん、子宮頸ガンの疑いはないか、高血圧や糖尿病などの持病はないか、というものから脳卒中に繋がる危険性もあることで、脳血管、心血管系に異常のあるかどうかもあります。
可能であれば、医師に相談してから服用するようにしましょう。
まとめ
日本でのピル普及率は1~3%とまだまだ浸透していないのが現状です。
副作用が怖い、避妊で使うものというイメージもありますが、ピルは正しく使えば女性にとって嬉しい効果をもたらしてくれるものなのです。
また、ピルは医師に処方してもらうものであり、低用量になったことでリスクは低下したものの血液を固めてしまう副作用がありますから、事前に体の状態や医師との相談が必要になります。
活用する際には、デメリットも確認しておくことが大切です。
しかし、ピルを長く服用することで、赤ちゃんを授かる可能性が上がるのも確かです。
ピルを活用する際には、医師とよく相談した上で自分に合ったピルで妊娠できる確率を上げたいものです。